リスティング指名系KWの広告出稿に意味はあるのか、無駄コストなのかを考える

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広告施策を評価する際、投下した広告コスト/費用に対する広告での獲得件数/売上etc といった成果指標を追いかけようとすると、必然的に期待値が高まる”指名検索広告”。
指名検索広告(と多くの場合アフィリエイト広告)がCPAやROASを効率よく収めてくれるので、全体効率を考えれば、それ以外の非指名検索広告やターゲティング広告、場合によってはPRなど含め本当に仕掛けたいこと実施できるようになる、といったプランニングを行う会社さんも少なくありません。

が、指名検索広告、それって本当に必要なのでしょうか?
すでに自社サービスに対するモチベーションが高い人を、無駄にお金を出して連れてきているだけではないのでしょうか?

この記事では、指名検索広告の意味、指名系KWでの広告出稿が必要なケース・必要悪だが仕方のないケースを考えていきます。

リスティング指名検索とは

どのような広告か

検索連動型広告の中で、広告出稿のタイミング=検索キーワードを自社社名・サービス名指名に設定しているものを便宜的に指します。
例えば左図のような、マネックスが広告出稿している”マネックス証券”というKWは、マネックスにとっての指名KWです。

なお指名KW以外のことを、非指名KWと呼んだり一般KWと呼んだりします。
例えば、マネックスにとっての”ネット 証券会社”、”株 手数料 安い”であったり、コモンズ投信という会社にとっての”マネックス”だったりが、非指名KWに該当します。

A社にとってのA社社名・サービス名は指名KWですが、他社にとってのA社社名・サービス名は非指名KWです。
ゆえに、特定のキーワードが指名KWとして存在するのではなく、企業によって変わってきます。
一般KWについては、誰かの指名KWとなるようなものもあれば、”生命保険”のような確実に一般KWとなるものもあります。検索者のモチベーションに合わせ、カテゴリ系、競合系、・・などとさらに細分化させるのが一般的です。

他社名に対し広告を出稿している例

なお指名検索広告、Google・Yahoo!といった検索プラットフォーマーはもちろん、Amazon、楽天といったECプラットフォームでの検索のことも含んでいます。

Amazonでの検索事例で、例えば”メリーズ”と検索すると

検索結果画面最上部=Amazonスポンサーブランド広告
ではエリエールのグーン(GOO.N)が広告露出しており、

検索結果最上部=Amazonスポンサープロダクト広告
では花王のメリーズが広告露出していました。

エリエールが他社商品名KWを狙い撃ちし、メリーズを買おうと思っている人を奪い取ろうとしている構図です。
もちろん、何が何でもメリーズを買いたい人は奪えないのですが、そこまでメリーズへのこだわりが強くないような人であれば、グーンのディズニーデザインで奪い取れてしまう可能性は十分にあります。

なおAmazon広告の種類は下記にまとまっていました。ご参考まで。

Amazonのデータクリーンルームをたたく大前提、Amazon広告の種類とは
Amazon スポンサープロダクト広告、Amazon スポンサーブランド広告、Amazon スポンサーディスプレイ広告、Amazon DSP MS、Amazon DSP SS・・さらにはプレミアムパッケージやfire TV広告、フレッシュサ

なぜ指名検索で広告を出すのか

これまでの様々な経験を踏まえると、パターンとして3つあると考えています。

(深く考えておらず)惰性で出稿している

何も考えていない、とまでは言いませんが、着地である獲得単価、入り口であるCPCのいずれも安価・ないし変動が少なく安定して効率が良いためそのまま継続している。
あえて止める理由があるほど考えてはいない・検証できていない。
広告の獲得効率は良いのでそれで充分だと判断している(評価が広告の獲得しか見ていない)。
代理店がやると言っている。

そんな状況も少なくありません。

万一、惰性感が強いのであれば、例えばですが、
 どういう人が指名検索することができるのか
 指名検索広告の獲得が伸びると全社売り上げも比例して伸びるのか
を一緒に考えてみませんか?

とはいえ、考えていないといいつつ、実はその裏でこれからご紹介する2つのことを何となく考えていらっしゃる担当者さんがほとんどです。

競合流出を避けたい

最も多いパターンがこちらです。

例えば、SEO対策が間に合っておらず、指名KWで検索しても自社が2位以下に落ちてしまう、であればリスティング広告を出すことによって一番上・ファーストビューを確保したいようなケース。

例えば、SEO対策は十分で自然検索順位は当然1位であるが、競合や比較サイトが自社指名KWでリスティング出稿してきているため奪われるわけにはいかず自社KWは自社が1位を取るために必要悪な出稿が迫られてしまうケース。

例えば、自社商品名が一般KWとして定着しており、他社の入札が自然な形で・自社をつぶす意図があるかどうかわからない形で繰り広げられてしまうため、その対抗措置が必要なケース。
サプリメントのセサミン・グルコサミンなどはサントリーの商品名であると同時にただの成分名でもあります。そのため、ごまセサミンのような成分が入った商品であれば、2社ともに指名検索である、といった状況が起こりえます。
(商品名の一部が一般KWとして成立しても指名KWとみなす場合)

当然、セサミンが欲しい人の中にはサントリーで買いたい人もいればセサミンが気になっているだけの人もいるわけでして、指名KWとして前者の競合流出阻止・一般KWとして後者の囲い込み、その両方を行う、という出稿方法です。

Google/Yahoo!内での争いも激しいですが、それ以上に(特にセール期の)ECサイトでの争いも熾烈です。
基本的にもう買うモードの人が検索している割合が高いですので、最後の最後で優良誤認させて奪い取れるか/誤認させず守り切れるか、という戦いです。

最適なブランド体験を提供したい

ブランド体験を重視するような場合には、競合対策が必要でかつブランド体験も重視、という併用意識の広告主さんが多い印象があります。

SEOは1位、競合入札が仮に全くなかったとしても、検索してくれたユーザーを誘導したいページは実はSEO1位の商品詳細ページではなく商品特設LPだったりキャンペーンページだったり・・
そういった場合です。

生活者に対する情報設計を整理し、そう簡単に変えられないオーガニック検索結果/大幅な変更が難しい既存ページではなく、新たにリスティング指名検索広告で真に触れさせたい情報に触れる導線を作ります。

ブランド体験最適化のみを考えるリスティング指名系KW出稿の場合、ユーザーによって広告文を変えるレスポンシブ広告や、3回サイトに来たユーザーには広告を出さないような配信コントロールなどを組み合わせ、最小のコストで目的達成を図る努力も必要になってきます。

指名検索広告 是非の判断

リスティング指名検索が、完全に必要な場合

競合流出を避けたい場合には、何が何でも必要です。
自社KWで検索してくれているユーザーであれば何もしなくとも自社サイトに来てくれるはず、という幻想を抱くのは自由ですが、現実的にはAppleレベルでない限り、確かに自社KWに興味を持ってはいるものの別段自社サービスでなければならないわけでもない、といった生活者がほとんどです。

比較サイト・アフィリエイトサイトが力を持っているような場合、生活者からしてみればオリックス生命の公式HPなのかアフィリエイトサイトの保険紹介ページなのかはもはやぱっと見ではわかりません。
かつ、アフィリエイトサイトに流れてしまった場合はアフィリエイトサイト内でオリックス生命vsライフネット生命のような比較をされてしまう可能性があり、せっかく囲い込めそうな見込み顧客の流出リスクが上がってしまいます。

他社ブロックのための指名検索、本当は出したくなかったとしても出さなければならない、そんな状況も少なくありません。

リスティング指名検索の必要性を検討すべき場合

プラットフォーマーは関与しませんが、紳士協定によって他社入札を止めることができる可能性はあります。
邪推ですが、”アコム”KWにはアイフル・プロミスなどは広告出稿しておらず、”アイフル”KWにはアコムは広告出稿しておらず・・といった、お互いにお互いを守りあう、コスト削減を図るような約束事があるような気がします。自動車業界にもありそうです。

他社流出リスクがない、ないし限りなく小さい。そのうえで、SEO1位、そんな場合はリスティング広告出稿が本当に必要なのか、仮に出稿をやめたとしても自然検索に流れてくれるのではないか、といった検証をすべきです。
例えばそんなブランドが何かといえば、言わずと知れたビッグテック、Amazonです。

Amazon と検索すると、一番上に出てくるのはAmazonトップページへのリンク先が設定された広告です。
もちろんSEO1位もAmazonで、とび先は広告と同様です。

これが、下部や2ページ目以降で表示されるようなKindleをはじめとする他プロダクトへの誘導であればブランド体験最適化という文脈で指名検索広告の必要性が明らかではあるのですが・・

AmazonはAmazonで当然データクリーンルーム:AMCを持っており、データ分析もしていることでしょう。AMCに入るデータは広告Imp以降、ゆえにデータを集めるために広告を出している、そんな可能性や

AmazonがAmazon KWで広告を出さなくなった瞬間に楽天やPayPayモールなど他ECが攻勢をかけてきてしまう、偽サイトが跋扈する可能性がある、そんな可能性も

ゼロではありませんが、果たして投資に見合うのか、疑問が付きません。

また、ブランド力が強い場合には、ECサイトでの広告出稿も再検討の余地があります。
例えば広告出稿について、
・競合KWでのROASと一般KW(カテゴリKW)でのROAS、どちらが良いでしょうか?
・商品名や社名を検索するタイミングは、商品検討時でしょうか?購入のタイミングでしょうか?
といったことを考えていきますと、買うタイミングでしか商品名が検索されないようなジャンルで、競合KWでのROASが著しく悪いような場合には広告出稿は不要な可能性もあります。

指名検索広告出稿時に気を付けるべきこと

代理店が仕掛ける可能性がある甘い罠

広告出稿により広告獲得を最大化、というオリエンをしている場合や、特にそういったオリエンをしていなくとも代理店がその態度でくる場合には注意が必要です。

広告出稿の目的は、広告成果の最大化ではなく、ビジネスへのコミットであるはずです。
ビジネスを考えるのであれば、例えば売上や成約は経路が何であれ全数が増えていればそれでOKではないでしょうか。
であれば、広告出稿によって非広告のCVも増える、その部分もきちんと評価し、投資対効果に見合ったビジネス成長が起きているのかどうか判断すべきです。

その際、肝となるのがリスティング指名検索広告です。
指名検索されるためには商品/サービス名が最低限認知されている必要がありますが、
 その認知はいったいどこから出てきたのか
 TVCMやYoutube動画広告やアフィリエイトサイトで作られたものではないのか
であれば、指名検索広告ではなく認知を作ったメディアの評価として指名検索広告の成果を見込むべきではないのか、といった判断を行っていくことを推奨します。

一般的に、予算を指名検索広告に割くほど、広告の成果は良くなり全体の件数は伸び悩む、そんな傾向が出ます。
指名検索広告に予算を割いたことで自然流入するはずだった人をとってしまうだけ
+その分のコストで稼げたはずの獲得数がついてこない
そんなドツボにはまらないよう、お気を付けください。

指名検索広告出稿、無駄コストかどうかの効果検証

指名検索広告に期待した役割がどれくらい果たされているのか、を見るべきです。
具体的には、
・競合流出がどの程度防げているのか
・自然検索への必要悪の影響はどの程度あるのか
・指名検索広告によりどの程度CVが純増するのか
等です。

仮にそれがなかった場合、という反実仮想のような検証にも方法はいくつかありますが、最も簡単な方法はエリア比較です。
具体的には、指名検索広告を出稿するエリアとしないエリアを複数選択し、後追いでエリア全体や検索経由(自然+リスティング)のClickシェアやCTR・CVRや人口あたりCV数などを見る方法です。
極めて簡単な方法ではあるものの、検証エリア=非出稿エリアでは機会損失が起きてしまう、といった欠点もあります。短期間で検証データだけ集めるのに向いた手法です。

機会損失を起こさない方法として、データクリーンルームを使う方法もあります。
指名検索広告クリック者・非クリック者かつ自然検索クリック者・非クリック者かつ自然検索非クリック者を比較し、Imp効果・クリック効果を求めることができます。

さらに、その効果については要素分解=どんな人たちのリフト効果が高かったのか、も検証可能で、例えば、20代女性はリスティングがないと他社流出比率が大きすぎるので入札強化、といった、広告配信との合わせ技も可能です。

広告効果の評価手法、アトリビューションとリフトの違いって?
売上が、資料請求が、本購入が、それぞれ設定したCVに対して、広告を含む施策効果がどのように影響していたのかを把握し、CVを最大限高めるために予算配分や運用調整をどうしていくべきなのか示唆を得る。PDCAで言うところのCheck、OODAで言

指名KW検索広告、検証方法まで含め使い続けるかどうか改めて見直してみてはいかがでしょうか。

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